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研究者紹介 vol.24 物質創成科学領域 ナノ高分子材料研究室(網代研)CHANTHASET Nalinthip先生

タイ・バンコク生まれ。2013年カセサート大学で化学の学士号、2015年同大学でナノマテリアル化学の修士号を取得。2018年奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学領域ナノ高分子材料研究室網代広治教授のもとで博士号を取得。2019年よりSCG化学会社(タイ)の研究開発グループに参加。2019年6月から奈良先端科学技術大学院大学助教。現在の研究対象は、新しい生分解性ポリマーの設計と合成、および化学修飾による開発。

なぜ研究者に?

高校生の頃から数学や理科は得意で、将来は宇宙飛行士になりたいと思っていました。宇宙に行きたくて、いつかNASAに勤めたいと考えていたのです。ただ、高校時代にタイ国から大きな奨学金(Science Achievement Scholarship of Thailand, SAST)を得たことをきっかけに、化学分野の科学者になりたいと考えるようになりました。
大学は、カセサート大学の化学部に進学し、博士前期課程ではナノマテリアルを専攻しました。2015年に修了し、博士後期課程は本学の網代研に進学しました。修了後、3カ月間ですが、タイのSCG chemicalsに勤務しました。この会社はポリエチレンを扱っていて、私は超薄型ショッピングバッグの開発に従事しました。その後2019年4月にポスドクとして本学に戻り、2019年6月に助教として着任しました。

会社は利益を出すことが第一で、それは、より良い製品を細かい点にまでこだわって開発することとは異なります。また、製品開発には人材の育成が欠かせませんが、それは会社にとっての第一の使命ではありません。一方、アカデミアでは、利益を上げることからは離れて、材料や製品開発のための研究に取り組むことができます。さらに、教育機関であることから、学生を育てることが第一で、かれらの成長に関わることもできます。このように考えるようになり、会社を退職してアカデミアに戻りました。

アカデミアの世界なら、自分がテーマとする研究を進めることだけでなく、人間の成長にも関わることができます。人間というのは世界中の人間という意味です。いま私のラボではたくさんの国から学生を受け入れていて、たとえば女子学生は韓国から1人、タイから2人、マレーシアから1人、インドネシアから1人、中国から1人、フランスから1人と多様です。まさに世界中の人間の成長に関与できていると思っています(笑)。
ラボでは、学生たちと議論する時間をもっとも楽しんでいます。ラボは、誰でも、どんな意見を言ってもよい場です。学生とのディスカッションを通してかれらの意見を知ることはとっても楽しいし、刺激があります。実のところ、私は人前でプレゼンをすることよりも、実験室で学生たちと手を動かすことの方が好きです。

日本でキャリアを積むこと

タイの会社を退職したあとのアカデミアでのキャリアを本学でスタートさせたのには、3つ理由があります。1つ目はラボの主催者が網代先生だったからです。網代先生はとてもいいボスで、日本人だけれど、私のような海外出身者ともより自由に柔軟に接してくださるし、とてもオープンです。彼は私の意見をよく聞いてくれます。2つ目の理由は日本の研究環境です。タイの科学者は一般的には研究を進めるための十分な資金を得られないし、本学のスタートアップ研究費のようなサポートも得られません。タイで科学者として働くことは難しいことなのです。3つ目はラボのある大学がNAISTだったからです。じつは就職活動をしていたときは、他の国で募集をしていたポジションに行こうと考えていました。でもNAISTを選びました。私は本学の出身ですし、ここがよい研究環境であることも知っています。また、研究者としてどのように生きていけばよいのか、つまり研究成果をどのように積み上げていけばよいのか、その方法も知っています。もちろん日本の他の大学にアプライすることもできましたが、もしそうしていたらそこで新たな生活を組み立てるのには時間がかかったでしょう。NAISTは私にとって新しい環境ではなかったことも本学を選んだ理由です。

現在の私の目標は日本でよく知られた教員になることです。日本の研究環境は私に合っていると思います。これまでに、タイだけでなくドイツやアメリカでも研究生活をしたことがあるのですが、私は日本のシステムが好きです。書類仕事はたしかに多いですが、私にとっては問題ありません。

一日のスケジュール

網代研のコアタイムは、9時半から18時半なのですが、私はこの時間はずっと学生たちと作業をしたり議論をしたりしています。自分の研究や書類仕事は、夜やランチタイムにしています。今年度は5人の学生を担当していて、彼らに常に「ちょっといいですか」と尋ねられるので、その対応を優先しています。とても楽しんでやっています。
私はまだシングルなので、土日は自分で家の掃除とたまっている洗濯をします。NAISTのバドミントンクラブやテニスクラブに行くこともあります。ドライブも好きで、車で小旅行にも行きます。ドライブはとってもリラックスできます。休みの日はオープンキャンパスなどの仕事が入らない限り、大学には出てくることはありません。

本学の研究環境と課題

NAISTの研究環境はとてもよいと思います。規模が小さいこともあって、あらゆる手続きや調整のスピードがはやいのがよいと思います。共通機器もよいし、技術職員の方にはとても感謝しています。いつもお世話になっている素晴らしい技術職員の方が3人くらいいらっしゃいます。何かをメールで依頼しても対応がはやいし、機器のメンテナンスも十分にしていただいています。

また、学生が共通機器を利用できることも、とてもよいと思います。もしこれがタイの場合、超電導核磁気共鳴装置(NMR) で解析をするのに一日かかります。でも同じことがNAISTでは10分で済みます。
いっぽうで、生活面の環境は難しいですね。本学は市街地にあるわけではないので、バスの本数も少なく、買い物には車をもっているほうがよいです。ただ、大学内に研究プロジェクト「NAISTカーシェアリングシステム」があって、キャンパス内と大型商業施設やクリニックモール等のある駅近くの駐車場の2カ所で車の貸し出しと返却を行うことができます。カーシェアリングは学生や教職員が誰でも乗り捨て可で利用できて、よい取り組みだと思います。

ここに着任をしたとき、女性教員の少なさに驚きました。タイでは大学には女性教員はたくさんいて、むしろ男性より多いので、日本の状況はタイとはまったく逆です。日本はアカデミアの世界そのものに女性が少ないですね。タイでは教員の6割から7割を女性が占めており、学生も女性の方が多いです。着任前に網代先生に「あなたは女性で、海外出身者で、大学として必要な人材だ、サポートするからぜひ応募してほしい」と言われたとき、初めは「なぜ女性?」と意味がわかりませんでした。タイでは女性教員はマジョリティだからです。
いまNAISTは女性教員比率を上げようとしていますが、それはいいことだと思います。今年度、物質領域の光反応分子科学研究室(河合研)に、私と同じく、女性で海外出身者のMarine Louis先生が着任されたのはよかったと思っています。私はNAISTで女性であることによる不便は感じたことはなく、多くの男性の教授とも自由に話ができます。でもMarine先生と情報交換をしたり、気兼ねなく話ができるようになったのはよかったです。実は日本人の女性の先生たちとはまだつながれていないので、これからトライしたいと思います。

NAISTがさらにこうなったらもっとよいのにと思うこととしては、学内にカフェがあればということですね。大学のすぐ近くの高山サイエンスプラザにあった喫茶室が最近閉まってしまったし、いまはどこにもコーヒーを飲める場所がありません。みんながコーヒーを飲みながら研究のことを話したり、インタビューをしたりといった交流のできる場所があればもっとよいのにと思います。

(令和3年7月)

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