研究成果 2020/02/05
大阪大学蛋白質研究所の古郡麻子准教授らは名古屋大学大学院理学研究科 内橋貴之教授、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 建部恒助教らとの共同研究によりヒトのゲノムDNAを修復する酵素であるMRE11/RAD50/NBS1複合体(MRN)の高速原子間力顕微鏡観察に成功しました。
放射線や抗がん剤などによってゲノムDNAが切断されてしまうとヒトの細胞は死んでしまいます。この切れたゲノムを治すために細胞の中で働いている酵素がヒトMRNです。そのためMRNは抗がん剤や放射線治療に関係するほか、細胞のMRNの働きが悪くなると発がんや老化が促進されます。またゲノム編集技術でもゲノムDNAの切断を人為的に誘導するため細胞のMRNが働かなければゲノム編集はできません。
このように医学・生物学的に重要な酵素であるMRNの分子構造を明らかにするため、主に欧米の研究グループにより原子間力顕微鏡による蛋白質構造解析が20年ほど前から精力的に行われてきました。しかし今回、日本で開発された高性能の高速原子間力顕微鏡によるMRNの分子構造観察を行ったところ、これまで報告されていた酵素の姿とは全く異なる像が見えてきました(図1、図2)。
これまでMRNは主に球体から二本の腕を伸ばしたような形をしていると報告されていて(図2、右端)、伸ばした腕はMRNが放射線により切断されたDNAを修復する際にDNAを繋ぐために使われると考えられてきました。しかし今回、古郡准教授、内橋教授によって実施された高速原子間力顕微鏡観察により、MRNは主にはリング状の構造をしており、球体部分が二つに別れてサクランボ状の構造になることでリング構造の開閉をしていることが明らかになりました(図2、図3)。また、今回観察された分子構造の正しさは、建部助教による分裂酵母を用いた遺伝学解析によって生物学的にも証明されました。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、1月17日(金)19時(日本時間)に公開されました。