「高い研究力が優れた教育環境を育む」
「大学院大学の多様な人材が強み」
塩﨑学長が推進する「共創」の体制づくりでは、奈良先端大の研究力の強化だけでなく、他大学、地域、企業との連携も図っており、学長就任後1年を経て着実に進行しています。また、2020年度の教員1人当たりの科研費(科学研究費補助事業)の獲得額や論文数など研究の実績が高く評価され、有力研究大学としての本領を発揮しています。こうした奈良先端大の底力の源泉となる大学コミュニティの実力や魅力に加えて共創を実現するプランに抱く思いを語ってもらいました。
蛸壺の環境とは無縁
奈良先端大の研究力の強みはどこにあるのでしょうか
塩﨑学長 創立以来30年の歴史を振り返ると、当初から非常に高い志を持って設立された大学であり、歴代の学長、そして教職員の方々が研究・教育の水準をさらに高めようという明確な意思をもって伝統を築いてこられました。その中で、奈良先端大には、学部のない大学院大学として、研究の場がそのまま教育の場であるという大きな特徴があります。最先端で世界トップレベルの研究をすることがそのまま優れた人材育成の教育環境に直結するという哲学があり、それを実践してきたことが、奈良先端大の一番の強みであると思います。
もう一つ、学部がない奈良先端大には、必然的に多様な背景を持つ学生、教員が集まることです。最近、「アカデミック・インブリーディング」(自学の出身者を優先的に教員として採用する慣行)という言葉が使われ始めています。学部生時代から、大学院生を経て、教員になるまで一貫して同じ大学で過ごすケースが日本の大学には多く、蛸壺(たこつぼ)のような環境ではないか、ということです。まったく対照的に、奈良先端大には、さまざまな大学や企業、さらに海外の研究機関を経験した教員・研究者が非常に多く、学生も含めて「世界を相手にする」という広い視野が育まれています。
さらに多様性を高めるための取り組みはありますか
塩崎学長 本学だけでなく、理工系の大学で課題になっているのことの一つは、女性教員を増やすことです。そこで、「学長ビジョン・イニシアティブ」の取り組みの一つとして、任期付き若手教員が独立して研究に取り組むことができ、成果が認められれば終身雇用される「テニュアトラック制度」により、女性限定で教員を公募しました。奈良先端大のどの分野・領域でも選べるよう採用の間口を広げたところ、非常に多くの応募があり、選考の結果、お2人の極めて優れた研究者を採用することができました。本学教授の多様性をさらに高めるという目標に向けて一歩前進できたように思います。
認知度を高めるアイデア
大学院大学の在り方を改めて議論するという「学長ラウンドテーブル(学長RT)」は、どのように進められていますか
塩﨑学長 部局の幹部が出席する役職指定の会議ではなく、多様な教職員が率直に議論を交わす場となるよう工夫しています。「ラウンドテーブル」と名づけたのは、丸いテーブルには上座下座が無いからで、互いに肩書や「先生」とは呼ばず、「さん」付けで対等な立場で話をする決まりにしました。ここでの議論から大学院大学を定義し直し、その強み、素晴らしさを含めて社会の認知度を高めるための方向性を見出すのがねらいです。これまでの意見の例では、「学部が無いので、教員は大学入学共通テストなどの入試業務や学生実習の負担が少なく、教育研究の時間が確保しやすい。教員の公募のときに本学で働く利点としてアピールしてはどうか」「学内のメール連絡が日英併記という本学のシステムは、国際化の高さという点でもっと評価されていい」など、本学の構成員なら当然と思っていることが、実は他大学では当たり前でないことに気づかされるところも多いです。学長RTのミーティングは2ヶ月に一度だけですが、メンバーでSlackも立ち上げて意見・情報交換を行っています。
地域の核になる
地域共創推進室を設置し、地域、企業との連携を強めていますが、今後はどのような方向をめざしますか
塩﨑学長 国が研究大学の強化のため、10兆円規模の「大学ファンド」を設立し、大学支援の形が大きく変わりつつある中で、「地域の中核となる大学」というコンセプトが浮上しつつあります。かつて日本の国立大学が各都道府県に設置されたのも地域貢献が一つのテーマだったわけで、海外の主要大学も地元と結びついて発展しています。本学は、生駒市と新たに包括連携協定を締結したのに加え、以前から続いている関西文化学術研究都市けいはんな学研都市との連携もさらに強化します。
また、昨年、新たに加盟した「京都クオリアフォーラム」は、先端技術でビジネスを展開する7つの企業と本学を含む7つの大学がコンソーシアムを組み、地域の課題解決に貢献するのに加え、人材育成についても博士後期課程の学生のキャリアを企業の中で拡大するという新しい産学連携の取り組みを進めており、期待しています。
コミュ力を鍛えよ
多忙な中、学長室から発信する「NAISTep」の発行など、自ら積極的にコミュニケーションを図っておられます。大学コミュニティの活性化にどのような効果を期待されますか。
塩﨑学長 米国の大学では学内広報が活発で、メールや動画の配信で大学のニュースや活躍している研究者を紹介しています。大学構成員にとって元気が出るような内容が多く、教育研究に対するモチベーションが得られることもあります。カリフォルニア大学で教員として長年勤務した自身の経験からも、学内広報は大学がコミュニティとして機能するための一つの基盤になると考えてきました。本学でも学内広報に力を入れることで、構成員の意識やモチベーションを高めるともに、大学に対する社会の認知度向上の基盤をつくることができると考えています。
日本の大学は、もっと「コミュ力(コミュニケーション能力)」を高める必要があり、教員、研究者、そして学生それぞれにとっても非常に大切な課題です。社会課題が複雑化しているために、一つの専門分野の知識や技術で解決できる課題は少なく、他分野の研究者とチームを組む必要が高まっているだけに、「コミュ力」の強化に大学として取り組んでいくべきと考えています。