考え方の違いを認識したうえで、理解し合うことが大切
奈良先端科学技術大学院大学の1研究科体制はスタート以来4年を経て、着実に軌道に乗り、情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3領域が連係し、共創して新たな世界水準の研究教育の拠点を打ち立てる段階に進んでいます。そこで、4月に先端科学技術研究科長に就任した梅田正明バイオサイエンス領域教授(領域長)に3領域連携の課題や新機軸の教育プログラムの成果、研究の活性化の方策などについて語ってもらいました。
3領域調整の要
研究科長に就任され、いまのお気持ちは
梅田研究科長 私は研究科長であるとともに、バイオサイエンス領域長を兼任しています。昨年度から研究科長は独立した役職ではなく、情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3領域長のうち1人が職務を兼ねるという体制になったもので、互いに他の領域の実情をつぶさに把握し、密な協力、共創の形での連携を育むうえで有効な仕組みと思っています。そこで、研究科長としての一番大きな役割は、教育研究に対する考え方が異なる3領域の意見をまとめることです。そして、大学の執行部、事務局とやりとりし、各領域にフィードバックしながら新たな方針を整えていくための「要」のような存在になることだと思います。
1研究科体制を進めていくうえで、さらに3領域の連係を深めるためのポイントはどこにあるのでしょうか。
梅田研究科長 3領域それぞれの研究の背景から見て、考え方に違いがあるのは当然ですが、どこがどのように違うのかを互いに認識し、理解し合うことこそが共創を実現するための原点といえます。領域間で知り合う機会が増えてきたとはいえ、未だ調整が必要なこともあります。一例を挙げれば、学生の教育研究については、情報科学では研究室単位での指導に重きをおく傾向があり、バイオサイエンスや物質創成科学では、基礎教育のところは、領域全体で体系的に教えようという姿勢が整えられてきたように思います。
人気呼ぶ教育プログラム
教育プログラムについては、今年度から3領域の融合領域に挑戦するプログラムが強化されましたね。
梅田研究科長 3領域を融合したプログラムは、これまでのデータサイエンスの手法を取り入れて研究する「データ駆動型サイエンス創造センター(DSC)」に、バイオとデジタルが融合した技術で基礎から応用、社会の課題解決まで研究して技術革新をめざす新設の「デジタルグリーンイノベーションセンター(CDG)」を加え、この2センターを主体にして行うことになりました。企業の研究者らを招き、問題を自ら発見して解決する方法を学ぶ問題解決型学習(PBL)、社会倫理などの科目があり、社会が求める俯瞰的視野を持った人材の育成などにも役立つと思います。
このプログラムを選択する学生数は、教員の予想を超えて多く、これからも学生や社会のニーズを探りながら、積極的にチャレンジできる科目を増やしていきたいと思います。
優れた人材をPIに
研究の面での活性化は進んでいますか
梅田研究科長 日本の大学で女性教員の比率を高め、活躍の場を増やす取り組みが行われていますが、奈良先端大では、PI(研究室主宰者)を務めることができる女性研究者をテニュアトラック(若手の期限付き雇用)制度で採用するシステムを導入し、昨年度に特任准教授として2人が就任しました。このように優秀な人材を招へいし、PIとする制度は、大学の研究を非常に活性化すると思っています。また、教授、准教授、助教という研究室の教員の人数の構成については領域により異なりますが、研究の動向の変化に柔軟に対応できる形での構成を検討してみることも大切です。さらに、公募される研究の競争的資金(グラント)に対し、獲得するための組織的なサポートシステムも充実したいと思います。
一方で、世界の研究トピックスなどを体系的に調べているURA(リサーチアドミニストレーター)と現場の研究者の協力関係を密にすれば、大きなイノベーションにつながる全く新しい基礎原理の発見など奈良先端大独自の基礎研究の道筋が探りあてられるかもしれません。
大学に企業の研究者を
地域の産学連携については
梅田研究科長 地域連携については、地元企業の研究者らが奈良先端大に入って学べる環境づくりを進めていきたい。このような社会人学生を増やす計画については、本学で検討を始めたところです。また、本学の高度な実験の機器や設備を近隣の大学や企業と共用するシステムは、物質創成科学領域の物質科学教育研究センターで行っていますが、全領域に広げることも考えていきたい。共用の際に、本学で実証研究を行っている乗り捨て可能な「NAISTカーシェアリング」を活用して、交通の便を確保することもできるかもしれません。
大学の国際交流の推進に新型コロナウィルスの影響はありますか
梅田研究科長 コロナ禍で現地に行っての交流が減ったものの、オンラインでの交流のメリットもあることがわかり、それを活用しながら、少なくとも元の水準の交流実績には戻していきたい。また、本学と外国の大学で同時に学位が取れる「ダブルディグリー(複数学位取得制度)」の留学生が増えていますが、バイオの場合、本学での実験が必要で1年程度かかるなどの課題があり、対応策を考えています。
研究者の立ち位置がわかるスケールを
今後、1研究科の体制でどのようにして独自の研究教育を築き上げ、成果をあげていくことが望ましいですか。
梅田研究科長 3領域の考え方が異なるところは尊重したうえで理解し合うことが大切。その相違を知るための基準のスケール(物差し)となる共通認識をまとめることが重要です。それをもとに各自の研究がどこを目指しているのか立ち位置を意識してもらえれば、全体が見えてくる。社会のニーズに合致しているか、これから何をすべきかがわかるし、特に領域を跨いだ共同研究でアイデアを紡ぎ出すときに役立つと思います。