世界最大級の見本市「CES2023」で奈良先端大の研究シーズをアピール
サステナビリティ、メタバースの時代を実感
世界最大級のハイテク技術見本市「CES2023」(全米家電協会主催)が1月5日~8日に米国・ラスベガスで開催されました。奈良先端科学技術大学院大学は、「Light up the flexible future ‼」をテーマに、情報科学領域、物質創成科学領域の2領域とデジタルグリーンイノベーションセンター(CDG)から4研究室の研究者、学生が参加して技術革新のシーズとなる研究成果をデモ展示し、世界の企業や研究機関に向けて大学の研究力をアピールしました。
本学は、CESに2020年から毎年出展しており、今回が4回目です。展示の内容は、CDGが電気の不用な照明として、発光生物の遺伝子を導入した「光る植物」の研究を披露。IT・エレクトロニクス関連では、
▽ポイ捨てゴミを自動的に分別し、その分布状況を自動的に可視化できるセンサ搭載のトング(ユビキタスコンピューティング研究室)
▽室内の二酸化炭素の濃度分布が立体的に見えるARゴーグル(サイバネティクス・リアリティ工学研究室)
▽次世代デバイス開発に必要な低コスト・高効率の薄膜技術(情報機能素子科学研究室)
の3研究を紹介しました。いずれも、CESの主要なテーマになっているサステナビリティ(地球環境の持続可能性)につながる研究でもあり、海外の企業や研究者らの関心を呼びました。
共同研究や起業のチャンスをつかむ
CDGの出村拓センター長に出展の成果や現地の反響、海外に積極的にアピールすることの意義などについて聞きました。
――前回2022年のCESは、新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインとリアル展示のハイブリッド開催でしたが、今回は通常の展示にもどりました。現地での反応をどのように感じましたか。
出村センター長 前回のCESでは、CDGは「光る植物」についてオンラインの出展でしたが、今回は初めて現地に出向くことができました。JAPAN TECH パビリオンという起業して間もないスタートアップ企業などが集まるエリアでの出展で、日本では会えない海外の企業の関係者ら業種を問わず多くの方に見てもらい、直接説明して意見を交換することで認知度を高め、今後の交流のきっかけを得られたのは非常によかったと思います。
――他国の大学からの出展もありましたか。
出村センター長 日本の大学は奈良先端大だけでしたが、目立ったのは韓国の大学の出展数の多さで、IT関連ではサステナビリティ、医療や健康管理のデジタルヘルスケアの分野に加えて、ドローンなどモビリティ(移動手段)の展示が多く、積極的にスタートアップをめざしていました。サウジアラビアの大学も大きなブースを出していましたが、米国の大学の出展が少なかったのは意外でした。
――本学の出展については、どのような反響がありましたか。
出村センター長 光る植物については、会場にテントを張り、その中を覗くと光る植物のイミテーションが発光しているという形で専門分野にこだわらず幅広く興味を引くための仕掛けをしました。「発光するキノコの遺伝子を導入した植物で、将来的に街路樹や室内の照明に使うことを狙っています」と説明すると、驚いた様子で畑違いの電力系の企業関係者が、電気を使わないサステナビリティの研究に関心を示したり、スタートアップ企業に投資する会社が細部にわたり聞き取るなど産学共同の研究の発展の大きなチャンスを得たと思います。
また、情報科学領域、物質創成科学領域の出展についても、二酸化炭素を空間的に視覚化するARゴーグルなどいずれもユニークな発想と高い技術力が評価され、非常に多くの人が集まっていました。CESでは、トレンドのキーテクノロジーとしてインターネット上の仮想空間を使う「メタバース」などを取り上げていて関連の展示が多く、AR/VRや半導体の設計などの本学の強みの技術開発が盛んに社会実装されている世界の現状を目の当たりにできました。
社会実装の現状が目の当たりに
――大学としてCESのような見本市への出展は、今後も必要でしょうか。
出村センター長 本学は、スタートアップに対する意識が高く、起業などに必要な知識やスキルを習得できる実践的コースワーク「GEIOT(ガイオット)」をすでに一般向けに提供しています。研究に専念してる教員や学生が意識改革して、いまの研究内容でスタートアップしたいと取り組み始めた時に、CESのような見本市に出展して、ベンチャー企業関係者らの話を聞き、会場でどのような研究が社会実装されているかを確認し、情報収集するのに大いに役立つと思います。
――出展した光る植物の研究でスタートアップされますか。
出村センター長 CDGの客員教授でもある大阪大学産業科学研究所の永井健治教授が開発された発光生物由来の発光タンパク質(ナノランタン)の遺伝子を永井教授との共同研究として本学でポプラなど樹木に導入して、さまざまな色の光を発する植物(LEP)に仕立てる開発を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新技術先導研究プログラムとして行っています。
一方で、研究成果を事業化するための資金「GAPファンド」も得ており、スタートアップを目指す段階に入っています。
今回のCESのキャッチコピーにあった「be in it(深く関わる)」は好きな言葉で、興味を持った人や研究、事業に積極的に関わって新たな成果を生み出すことは大切だと思います。