奈良県立奈良北高等学校に
新設の「理数探究」の科目を講義
最新の科学研究やデジタル社会の進展に応じて重視されてきた理数系の研究の意義、面白さを高校生の段階から知ってもらおうと、奈良先端科学技術大学院大学は、奈良県立奈良北高等学校と連携協力し新教科支援プログラムとして、令和4年度の新学習指導要領によりスタートした「理数探究」の科目の授業を行っています。高校で習得する数学、理科の知識や考え方を活用すれば、最先端の統計解析、データサイエンスなど大学院レベルの研究にも結び付くことを学習して意欲を高め、課題解決に必要な資質、能力を身に付けるのがねらいです。将来を担うデジタル人材の育成など本学の地域への教育貢献としての授業の成果が期待されています。
奈良先端大と奈良北高、奈良県教育委員会は、平成31年に情報科学分野での教育活動などで連携協力する協定を結び、本学の教員が研究室での研究実習や特別講義、奈良北高での出前授業を続けてきました。こうした情報科学領域の実績を踏まえ、「理数探究基礎」の科目の授業に取り組むことになりました。また、バイオサイエンス領域と物質創成科学領域の教員による特別講義も行うなど、幅広い先端科学分野からのアプローチで理数分野の授業の拡充を進めています。
先端科学の研究の考え方を体験実習
こうした大学院から直接、高校生にアプローチする高院連携について、令和4年度に「理数探究基礎」の特別講義を行った情報科学領域計算システムズ生物学研究室の金谷重彦教授に聞きました。
――全国で高校と大学が連携し、一体になって新たな価値を生み出す高大接続改革が行われていますが、学部がない大学院大学の本学と連携した「理数探究基礎」の授業はどのような視点で行われていますか。
金谷教授 研究自体に興味を持ってもらうことを念頭に、基本的な知識から始めて最新の科学の事象へと積み上げる「ボトムアップ型」の勉強よりも、むしろ、まず最先端の科学を知ってから、それを解く「トップダウン型」で進めるという発想です。大学院では最先端の研究にアクセスしやすく、その論文などを手掛かりに研究を進めており、このような「トップダウン型」の研究を体験実習を通して経験することが大切だと思っています。
――「理数探究基礎」の授業の概要を教えてください。
金谷教授 「理数探究」の目標は、高校で習う全科目についての総合的な視点を活用し、実習を通して研究の進め方を学ぶことです。仮説を立て、その背景となる研究を整理したうえで、実験・解析を行う。その結果として得られたデータの妥当性を評価し、新たな視点を取り入れ考察し、発表するという手順です。奈良北高の教諭とコンセンサスを取りながら、高校の教科書を調べて何を教えるべきかを検討しました。1回の授業を50分にまとめる段取りについては高校側の多大な協力がありました。
身近なテーマでも統計解析できる
――奈良北高の数理情報科と普通科の1年生全9クラスが対象でしたね。どのようなところを工夫されましたか。
金谷教授 理解し易い対象としてアンケート調査を取り上げ、データ解析から読み取れる結果を考察するという実習をしました。例えば「笑う門には福来る」という発想を研究対象にした場合、まず「講義はユーモア(笑い)によって信頼度(福)が上がる」と具体化した仮説を立てます。次いで、そのテーマでアンケート調査して統計解析した海外の英語論文を引用しました。掲載された調査データの棒グラフなど図表を読み取り、「面白いユーモアなら、講義の理解度が上がる」という論文の結果についてグループで議論しました。身近な事柄でも研究できることを認識してもらえたと思います。授業の前後に数理情報科の生徒が記入したアンケートについても解析しましたが、「難しい問題ほどやりがいがある」とモチベーションを上げていました。
――高校1年生の段階では、学習していない知識が多かったのではないですか。
金谷教授 多くの変数を持つデータから、特徴のある要素を導き出す「主成分分析」など統計解析の手法を使いましたが、図表の解釈から入ることで「習っていないことも、先取りしてわかることもありますよ」と説明すると、生徒らは楽しんで実習していました。
冒頭に私自身の研究の道筋や趣味など日々の生活をすべて紹介したので、大学院での研究を身近に感じてもらえていたとも思います。
――今回の高院連携の特別講義を終えて、どのように感じていますか。
金谷教授 データサイエンスの基礎を実習しながら学ぶという「学びの場」を本学から提供できたことで、生徒らの大学院での研究をめざす意識が高まれば、と期待しています。さらに、高校教育をはじめ、社会に対する本学の貢献度を上げていきたいと思います。
授業の様子
「理数探究」への思いを語る金谷教授