池内桃子特任准教授が文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞
植物が自ら傷口を塞ぎ、培養した細胞の塊(カルス)から芽を出すという旺盛な再生能力の機構の解明を進めている、バイオサイエンス領域植物再生学研究室の池内桃子特任准教授が、「令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞」を受賞しました。この賞は、科学技術の研究開発など目覚ましい成果をあげた研究者らを顕彰し日本の研究力の水準の向上を目指すものです。今回受賞した研究は「植物の高い再生能力を支える細胞分化可塑性に関する研究」で、基礎生命科学のみならず農業など応用分野の発展にも貢献することが期待されます。
今回の受賞について、池内特任准教授は「植物が持つ細胞分化可塑性に関するテーマは、2012年に理化学研究所の特別研究員として取組み始めたテーマです。これまで新潟大学、奈良先端科学技術大学院大学と、多くの共同研究者・研究室メンバーと一緒に研究を積み重ねたからこそ得られた成果であり、一連の研究が高く評価していただけたことを嬉しく思います」と話します。
植物は、傷つけられたり組織培養時に植物ホルモンを与えられるといった外からの刺激がある時に、細胞が脱分化したり別の細胞種に運命転換する「分化可塑性」を発揮して器官を再生します。一方で、通常のストレスを受けない環境では、体組織の秩序を保つため細胞が分化可塑性の発揮を防ぐ仕組みを持っています。池内特任准教授は、モデル植物のシロイヌナズナの研究から、こうした分化可塑性発揮の促進と抑制という制御の両面を解明してきました。特に近年の成果としては、培養した細胞塊(カルス)から不定芽を生み出すことを抑制する因子を発見しました。さらに、この抑制因子を働かなくさせることで組織培養効率を飛躍的に向上させることに成功しています。この成果は応用面でも農作物の品種改良技術の開発などに役立つことも期待され、企業との共同研究も進んでいます。
池内特任准教授は、東京大学大学院理学系研究科を卒業後、理化学研究所特別研究員、新潟大学准教授を経て、本学に赴任しました。「奈良先端大では、大学院教育と研究推進に専念できます。また、植物科学分野の研究力が全国トップクラスであり、植物栽培温室や充実した共通機器など、研究をしやすい環境が整っていることも大きな魅力です」と語ります。本学着任前に参画していた新学術領域研究においても「研究グループのリーダーをつとめていらっしゃる研究者に、奈良先端大の先生が多いという認識がありました。実際赴任してみると、研究室間でのディスカッションや技術交流などが盛んで、アクティブな研究者に囲まれることで学生たちのモチベーションも上がると感じています。自分の研究室だけではできないような研究が実現できると思います」。
研究に対する心構えとして好きな言葉は「Follow your passion(あなたの情熱に従いなさい)」。これは英国の著名な研究者に直接かけてもらった言葉で、「基礎科学研究であろうと、社会課題解決のための応用研究であろうと、あなたの情熱の導くままに研究を進めなさいという意味です。これからもこのような精神で研究を続けていきたい」と話しています。