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研究者紹介 vol.26 データ駆動型サイエンス創造センター 物質創成科学領域 データ駆動型化学研究室 宮尾知幸 先生

2010年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、株式会社DIAMアセットマネジメント(現:アセットマネジメントOne)を経て、2016年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2014年から2015年にかけてETH ZurichにてAcademic guestとして、また2016年から2018年までボン大学Scientific staffとして、ケモインフォマティクスに関する研究に従事する。2018年より奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型サイエンス創造センター准教授に就任し、現在に至る。

なぜ研究者に?

中学生や高校生の頃には研究者になろうとはまったく思っていませんでした。サッカーに熱中したりしていて、まるで頭になかったです。大学に入ってからもこれといって研究者になろうと意識したことはなかったですね。
岐阜県の出身なのですが、大学受験の指導を熱心にしてくれる高校に進んだこともあり、その流れに乗って東京大学に進学しました。もともと体を動かすことだけでなくて頭を使うことも好きでしたが、大学に入ってから勉強のおもしろさに気づき、本を読むことも好きになりました。3年生のときに船津公人教授の研究室に配属になり、そのまま修士課程に進学しました。
2010年に修士の学位を取ったあとは、文系就職で資産運用会社に就職しました。3年間働いた後、船津先生の研究室に博士課程の学生として戻りました。会社を退職したのは、いろいろ考えたのですが、因果関係のしっかりしている自然科学の方が今後私が取り組む分野として納得できると考えたからです。

金融の世界では、金融工学や数理モデルを使ってリスクを推定して、投資先を決定し、結果として損をしたら「こういう計算や行動をしていたからこうなった」と反省をするのですけれど、たぶんずっとその繰り返しなんです。特に入社した時期が、サブプライムローン問題が顕在化した時期ということもあると思いますが。金融の世界は、ダイナミックに、たくさんのお金を扱うことや経済の先端にいることが楽しいと思う人にとっては面白いと思います。ただ、私はその繰り返しがつらかったし、気になりました。その点、自然科学は、誤差はありますが、同じ条件で同じ実験をしたらほぼ同じ結果になります。つまり再現性があります。自分にとってはこちらのほうがすっきりするし、向いているのではないかと考えました。いまでも前の会社の元上司の方々には仲良くしていただいています。会社勤めをして社会人としての常識を一通り勉強する機会があったのは非常に良かったです。

博士後期課程には2013年10月に入学し、2016年9月に学位を取得しましたが、その間に1年間スイスに留学しました。化学情報の分野で創薬をターゲットにして成果を出されているGisbert Schneider教授(ETH Zurich)のもとで研究をしたくて、船津先生に紹介していただきました。スイスでの1年間は楽しかったですね。この間に日本にいた現在の妻と結婚をしました。
博士号取得後、2016年10月からJürgen Bajorath教授(Bonn大学)のもとでポスドクとして勤め始め、本学のデータ駆動型サイエンス創造センターの教員募集があると紹介してもらって、応募し、採用されて2018年4月に着任しました。このような経緯ですので、研究者を目指して研究者になったわけではないですね。好きなこと、楽しいこと、納得できることを続けていたら、研究者になっていたという感じです。
現在は、化学や化学工学に関わる予測と設計に関する諸問題を、ケモインフォマティクス(化学情報学)を武器に、データ解析を通して解決する研究を進めています。ある事象と事象のあいだにほんとうに因果関係があるのかはわからないのですけれど、できるだけ因果関係につながる発見をするように研究をしています。

子育てと研究の両立

現在、私のラボには、博士後期課程に社会人学生が4人、通常の学生が2人、博士前期課程に6人おりますが、ほぼ一人でみています。教育と研究の割合でいうと、教育が4、共同研究が4、自分の研究が1、その他雑務が1くらいでしょうか。共同研究では学生には渡せないテーマ、たとえば論文化が難しそうなテーマを引き取っていて、そうなると「ここ解析して」「コードをつくって」と言われると自分でしないといけないので時間がかかります。自分の研究をする時間は取れていないのが反省です。

子どもは可愛いですし、なにより大切です。もし私に子どもがいなかったらもうちょっと時間があると思います。でも子どもがいたら時間がなくなるのは必然ですよね。ふつうは子どもがいたら仕事の効率は落ちます。子どもがいて一番大変なのは、自分が一人になりたいときに一人になれないことだと思います。お子さんがいることが励みになって仕事の効率が上がるとおっしゃっている方は、たぶん、すごく強力なサポートがあるんですよ。専業主婦のパートナーがいるとか、ご両親と同居されているとか。ふつうの共働きだったら、例えば私のように17時半になったら保育園に迎えに行かないといけない。そうなると仕事は途中で止めないといけない。私はデータ解析が主でコンピュータを使っているので、どこでもできるといえばできるのですけど。もし実験主体の研究をしていたら、保育園のお迎えの時間に合わせてスケジューリングをしないといけないので、ものすごく大変だと思います。

一日のスケジュール

朝の保育園の送りは、子どもが「ママと行く」ということが多いこともあって妻が担当しています。私は朝仕事をしたいので早いときは5時には研究室に来ています。清掃をされている方とは顔見知りです。学生は10時過ぎまで来ませんので、この間に集中して仕事をしています。このスタイルが多分一番効率がよいのだと思います。ただ、コロナ禍になって、夜にオンラインミーティングが入ることがあって、朝起きられないことが増えました。オンラインだとどこにでも予定を入れられるという弊害があって。
夕方は保育園のお迎えを担当する日は17時半、お迎えに行かなくていい日は19時くらいには帰宅することが多いです。夕飯は妻がつくってくれて、私は子どもをお風呂に入れます。家事や育児の分担は、家事は妻が9対私が1、育児は7対3ですかね。分担についてもめたことはないです。妻が自分で完結したいタイプであることも理由かもしれません。

土日は子どもと過ごします。土日には研究がぜんぜんできないというのはありますね。子どもが生まれる前は休日も関係なくずっと仕事をしていました。
私のリフレッシュの方法は、最近はランニングです。週1回土日のどちらかでは走っています。体を動かすとすっきりします。妻は土日に私が子どもを公園に連れ出すと3時間くらいひとりになれるから、その時間にリフレッシュしているんじゃないかと思います。
また、岐阜の両親がけっこうな頻度でヘルプに来てくれています。子どもが保育園に入りたての時期はずっと手伝ってもらいました。最近も、ワクチンを2回打ったこともあって二週間に一度は平日にヘルプに来てくれています。ヘルプがある日は妻も私も保育園のお迎えを気にせずに思う存分仕事をしています。

本学の研究環境と課題

日本の社会がフルタイムの共働き家庭のための仕様にはなっていないというのは感じます。最近困っているのは大雨警報です。奈良市に住んでいるのですが、奈良市の保育園は大雨警報が出たら子どもの受入れをしてくれなくて。昨日(2021年7月15日)も大雨警報が出て保育園が閉まったので、午前中は私が在宅勤務を使って家にいました。結局9時くらいに解除になって保育園から受け入れますという連絡が来たので、預けて大学に出て来ることができましたが。妻は出張が多い業種ですし、こういった不測の事態があると非常に困ります。今回はコロナ事由の在宅勤務で対応できましたが、たとえば私が授業日で妻に出張の入っている日であれば無理です。そもそも在宅勤務を選択できる人ばかりではないですよね。警報がでると小学校も休校になりますし、小学校低学年のお子さんの子育てをしている人も困っているのではないでしょうか。大雨警報で保育園や小学校が閉まる問題はなんとかしていただきたいです。

本学の研究環境はとても快適です。風通しがよく、いろいろな領域の先生が上下関係なく自由に意見を言ったりできるし、自分の領域に固執して閉じこもっている研究室はほとんどなくて、みんなオープンで、いい大学をつくっていこうという雰囲気があります。いいところだなと思います。実質私一人がこの研究室を回していて、自分の研究がなかなか思うように進められていないことは課題ですが、それ以外はこのままでいいと思います。

(令和3年7月)

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