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研究者紹介 vol.27 情報科学領域 数理情報学研究室(池田研)日永田智絵  先生

2019年3月電気通信大学機械知能システム学専攻博士後期課程単位取得退学。同年12月、博士(工学)取得。2019年4月大阪大学先導的学際研究機構附属共生知能システム研究センター特任研究員経て、2020年2月より現職。専門はヒューマンロボットインタラクション、情動・感情ロボティクス。現在は特に感情モデルの構築を行っている。

なぜ研究者に?

小学生頃から兄の影響でロボットに関心がありました。アニメもロボットものをよく観ていましたし、ベイブレードやミニ四駆でもよく遊びました。ミニ四駆の大会に兄といっしょに出たことも覚えています。
中学生のころに、私の研究の原動力の軸となる出来事がありました。家族がストレス性の病気にかかり、医師に「これは治るものではない」と言われたのです。原因はよくわらないがストレスが関係していると言われ、家族としてこれからできることはないかと考えました。医学や薬学、医療機器開発のような工学の道も考えたのですが、そもそも日常的にストレスを防止する方法を考えたほうがいいと考えるようになりました。それで、もともとロボットが好きで知識もあったので「パートナーロボット」をつくりたいと考えました。

当時中学生の私のイメージしていたパートナーロボットとは、人の相棒としてのロボットです。ドラえもんとは少し違っていて、スマートフォンのほうが近い。人が日常的に携帯しているものというイメージです。というのも、家族ですら身内のストレスに気づけなかったということは、家を一日空けて、帰ってきて話すくらいでは足りない、もっと長い時間をいっしょにいて、ちょっとしたことも話を聞くことができ、時間を共有できるパートナーが必要だと考えたのです。
人の肩に乗っている妖精のような、手乗りのパートナーロボットをみんなが持っていて、人と同じ経験をすれば、その人が描写するだけではわからないことにも「あれ、いやだったね」と共感できるし、それが安心感につながる。私の家族の過去には戻れないけれど、また別の人が同じような症状にならないようにすることができるのではないかと考え、人と四六時中いっしょにいるロボットをつくると決めました。高校は理系を選択し、大学は電気通信大学に進学しました。

大学入学後、ロボットサークルに入りました。私がイメージしていたのは手乗りするロボットだったのですけど、それはやっていませんでした。サークルは参加するコンテストによっていくつかのグループに分かれていて、人型ロボットの部隊もあったのですが、なぜかロボットを闘わせていました。わたしは闘わせたいわけじゃないのでそこはやめて、小さいロボットをつくりたいからと、マイクロメカニズム部隊に入りました。1センチ立方のロボットをつくって迷路を走らせる大会に出たり、工作機械で金属を削ったりといった経験もしました。
ロボットをつくりたい、と思ったとき、私もそうでしたけれど、まずはハードウェアからつくろうと思いがちです。ふつうに機構を組むだけでは研究にならないことが今はわかりますが、当時はわかりませんでした。学部3年生で研究室を決めるときも、4足歩行で歩く機構とか、鳥の羽ばたきを模した機構をつくる研究室はある。でも「手乗りする人型ロボットを作る研究室がないんだけど」と悩んでいました(笑)。

当時、大学にはヒューマンロボットインタラクション(人とロボットの相互作用)の研究室がふたつあり、研究室選択のために、のちに博士後期課程の指導教員となる長井 隆行先生の研究室を訪れたとき、小さい人型ロボットを作りたいという話をしました。それを研究にするのは難しいと言われたことは覚えていますが、先生は親身に聞いてくださいました。その後長井研に配属になりました。

今も論文は読みますが、一日に読んだ論文の数(単純な数ですが)は学部の4年生が一番多かったし、いまだにあの当時が一番楽しかったと思います。長井先生と毎週のようにディスカッションがあったので、その日までに論文を読み、小さい人型ロボットを研究にするにはどうしたらいいのかをひたすら報告し、マンツーマンで指導していただきました。あの時間があったからこそ、私は今研究者になっているのだと思います。その後、修士課程に進学し、博士後期課程を単位取得退学して、大阪大学の浅田稔研究室で特任研究員の職を得ました。その後、博士号を取得して、本学に着任しました。

今取り組んでいるのは、社会的感情モデルの研究です。「社会」となると二者関係に留まらない。たとえば全裸で外を走るのは恥ずかしいという感情が私たちにはある。それには法律を含め私たちの生きる社会制度や文化的な背景、他者の視線が重要なポイントになります。そういった感情がどうやってうまれてくるのかを実際にロボットにつくってあげるというプロセスを通して解き明かしたいと考えています。このようなメカニズムを解き明かすことを「構成論的アプローチ」と呼んでいます。なので、私の研究は社会的感情の理解に向けた構成論的アプローチであり、社会的感情を持つロボットを開発するという取り組みでもあります。

一日のスケジュール

実験があるときは大学に出勤しますが、在宅勤務を選ぶ日も多いです。勤務開始時間はまちまちですが、だいたい午前中いっぱいはメール処理や事務処理をします。そして、週に2回、午後は池田研のミーティングに参加します。週に1回は論文を紹介するジャーナルクラブにも参加します。その他の時間は、コアタイムもないので、実装に向けたプログラミングをするなど、自由に研究をしています。

最近は実験を始めたので、毎日9時から19時半までオープンラボスペースに張り付いています。学生が2名手伝ってくれているのですが、8時台に大学に来て準備をして、9-12時、13-16時、16時半-19時半の3クールを行います。終わったら片付けして20時過ぎに帰宅しています。実験がないときは18時くらいには帰宅しています。
担当をしている学生は4名いて、このうち2名がもうすぐ修了します。研究と教育のバランスは難しいです。教員として教育に携わるのは本学が初めてなので試行錯誤中で、私の研究の進め方と学生の進め方、研究室の進め方、それらをうまくマッチさせることが課題ですね。それぞれの学生の修了に向けて、私が担う責任の大きさを実感しています。

本学の研究環境と課題

研究環境はすごく恵まれていると思います。担当する授業数は多くなく、研究の時間を多くとることができますし、助教でもオープンラボスペースを借りることができて、実験室を確保することができました。
ただ、助教の部屋が他の先生方と共同の部屋なので、このコロナ禍のウェブ会議は不便でした。一日中ウェブ会議の日は在宅勤務を選んだりしていました。研究室にはミーティングルームもあり、池田先生が設置してくださった防音ブースもありますが、ほかのメンバーも使いますし、一日中独占はできません。最近になって、オープンラボスペースを借りることができて、困ることは少なくはなってきています。

私は車をもっていないのですが、本学はアクセスが悪いのが不便です。出張のときにも少し困ります。出張先に行くのに迷うかもしれないからと早めに行こうとすると始発になる事も少なくありません。アクセスが良くなるか、大阪や京都、兵庫あたりに滞在できる施設があったらいいのになと思いますね。

(令和4年2月)

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