大羽 未悠 Miyu Ohba
情報科学領域 自然言語処理学 渡辺研究室 修士課程1年
出身:日本・愛知県
学部での研究内容:応用言語学
大学院での研究内容:自然言語処理
学部時代は、名古屋にある文系大学の外国語学部で、フランス文化を専攻していました。2年生のときに、なにか専門性を身に付けたいとプログラミングを学びはじめました。将来は営業職や総合職ではなく、手に職を付けて学び続ける方が向いていると考えていたからです。その頃、大学の授業で言語学が面白いと感じるようになりました。入学当初は芸術に関心がありましたが、科学や人間に興味を持ち始めました。その後、情報学と言語学の融合領域として、自然言語処理に辿り着きました。自然言語処理とは、人間が日常的に使う言語(自然言語)をコンピュータを用いて理解や生成(処理)することです。今からでも情報系を学びながら自然言語処理を研究できる手段はあるか調べていたところで、NAISTを見つけました。
文系出身者でも入学可能な情報系の大学院はほとんど存在しない上に、自分と似たバックグラウンドの方がたくさん在籍・卒業していること、文系出身で最前線で活躍されている自然言語処理を専門とするOBの方が何人もいらっしゃることを知り、進学したいと考えました。また、生活費がとても安く光熱費を入れても1万円台、しかも徒歩で校舎に通うことのできる寮があることも大きな魅力でした。
大学院でのテーマは、言語を扱うAI、すなわち言語モデルの分析です。言語モデルを使用したアプリケーションで有名なものとして、最近話題のChatGPTやSiriなどがあります。言語モデルは、まるで人間かのような振る舞いをしますが、言語モデルがどのように学んだり考えたりしているのか、人間と同じかもしくは全く別であるのかはよくわかっていません。そこで、私の研究分野では、人間と言語モデルの言語獲得にどのような共通性や相違があるのかを調査しています。学部4年生の3月に言語処理学会にオンラインで聴講参加し、心理言語学(人間がどのように言語を処理・獲得するのかに関する学問)と自然言語処理分野の融合的な研究をされている方の発表を見つけました。ご本人にその詳細を聞いた後に、運よく共同研究に発展しました。現在は、言語モデルの第二言語の獲得に焦点を当てています。例えば、日本語話者は欧米語圏の話者に比べて英語を学ぶのが難しいと感じやすいかと思いますが、言語モデルはどうなのかなどを研究しています。
研究室内のコミュニケーションにはslackやnotionを活用しています。研究室の全体ミーティングの言語も日本人同士の場合以外は英語、国際学会の論文の読み書きには英語、国内学会では日本語を使用しています。研究室のメンバー間でそれぞれの立場による扱いの差は特に感じません。渡辺先生はNAISTに着任する前はGoogle社で研究者として活躍されていたので、そのカルチャーの影響もあるかと思います。研究室の最初のオリエンテーションでも、ダイバーシティは研究の活力となり、インクルーシブや無意識のバイアスに目を向けようという話をされていました。
普段は自分が女性であることについて特に意識することもなく過ごせています。入学前は、研究室には日本人学生の女性は誰もいませんでしたが、特に気にせず志望しました。一方で、オープンキャンパス時に、渡辺研と同様に自然言語処理をテーマにしている研究室の女性の先輩とお話させていただいた際に、ご自身が入学される時、渡辺研も検討したが女性が一人もいなかったのもあってこの研究室を選んだとお聞きしました。確かに、同じ属性の人がある程度いた方が、その研究室に入りたいとより思えることもあるかもしれません。
将来、どのような職に就くかはわかりませんが、私たちの分野に関わるソフトウェアエンジニアや研究開発職は、勤務時間や場所をコントロールしやすいという意味で、女性にとってキャリアを積みやすいのではと感じています。自分がインターンシップに参加した企業でも、研究者としても大活躍している男性のマネージャーが育休を取得していたり、男性が当たり前のように子どもの体調不良で保育園にお迎えに行っていたりと、男女関わらず子育てしながらのキャリア構築を推進している文化がありました。この分野に女性が少ないのはもったいないと感じます。
昨年11月の「ジェンダーがわかると科学は拡がる!?」のセミナーに参加しようと思ったのは、アファーマティブ・アクションに関心があったからです。というのも、STEM分野に女性の数を増やすのは重要なことですが、他大学が入試や教員の女性枠などを推し進めることについてどこか納得していない部分がありました。上の世代は、男性が席を占めて女性は不利を被っているかもしれませんが、下の世代がその是正のために影響を受けるのは正しいのか疑問に感じています。特にNAISTは、様々な属性の構成員がいる組織です。誰しもがマジョリティにもマイノリティにもなり得ます。例えば、私の研究室のメンバーは、海外から来た学生が約半数を占めます。彼らは主に英語を使っており、研究室でのコミュニケーションは英語が主となります。日本人学生の中には英語を使える人、英語が苦手な人もいて、後者はマイノリティにもなり得ます。自分はNAISTコミュニティのなかでは、文系・女性という意味でマイノリティ、日本で生まれたという意味では、マジョリティとなります。全員の結果・機会平等を完璧に達成するのは難しいですが、ある策を実施する前と後でどの世代のどのジェンダーがどの程度有利・不利となるかなど、属性ごとの状況をインターセクショナルに把握することがまずは必要と考えています。
自分の属性が原因で研究に支障を感じる部分は特に思い付かず、ありがたいことに楽しく研究活動を進められています。しかし、研究室や領域によっては困っている方が少なからずいらっしゃるという話も耳にしています。NAIST には色々な属性の方がいるので、こういったインタビューが、「女性」といった目立つ属性以外にも、社会人や海外出身の学生といった様々な属性の方がどんな考えを持っているのかが広まるきっかけになればと思います。
成績に関する手続きは煩雑で、一部の必修単位が取れたかを確認するために事務室に問い合わせをする必要があったり、成績を確認するために毎回成績表を事務室の隣の機械から印刷する必要があったりします。もう少し無駄のないシステムを構築してほしいと願っています。
また、大学の運営側と学生側のコミュニケーションをもう少し改善できたらと思います。学内のジムがコロナで長期間閉鎖されたのちに急に取り壊されてしまったことにショックを受けている方が多くいました。維持する予算がないことだけが理由と聞いていましたが、数ヶ月後に行われた学長懇談会の大学側の回答を確認したら「全ての機器が耐用年数を超えていたから完全に新しいものに換えるには予算が足りないために撤去した」とありました。この理由を広く伝達することで、納得する方がいくらかは増えるかと思います。どの部分のどの予算が足りないのか、利用する側と大学とでもっとコミュニケーションが取れると良いと考えています。
(令和5年3月)