Wong Hao Jie
バイオサイエンス領域 遺伝子発現制御 別所研究室 博士後期課程 2年
出身:マレーシア・セランゴール州
学部での研究内容:海洋科学
大学院での研究内容:ゼブラフィッシュの遺伝子制御
マレーシアのサバ大学で海洋科学を専攻し、その後、マラヤ大学海洋地球科学研究所で海洋バイオテクノロジーの修士課程を修了しました。大学院在学中にIQ156のスコアを取得し、全人口の上位2%のIQを入会条件とするマレーシア・メンサの正式会員にもなりました。マラヤ大学はNAISTと学術交流協定を結んでおり、毎年事前審査プログラムに学生を派遣しています。私は2019年1月の2週間のプログラムの候補生に選ばれ、NAISTで博士号を取得する機会につながるかもしれないという期待を持ちました。NAISTを訪問した後、私はここで博士号を取得することを決意し、文部科学省の国費外国人留学生制度に応募しました。無事に奨学金を獲得しましたが、コロナ・パンデミックのために日本への渡航が延期されました。NAISTに入学する前に、大阪大学で6ヶ月間の日本語プログラムを受け、終了後すぐ2020年の秋に研究生として別所研究室に入りました。研究生として1年間過ごした後、2022年に正式にNAISTの博士後期課程に入学しました。
修士課程のときに、現在の研究テーマである遺伝子発現制御に関心を持つようになり、現在の研究テーマに発展させました。動物の発生過程では、様々な種類の細胞が協調して働き、システムを発達させます。私たちの研究室では、異なる細胞型の遺伝子の発現がどのように発生過程を助けるのか、そのメカニズムを解明しようとしています。別所研究室は現在、バイオサイエンス領域で唯一ゼブラフィッシュをモデル生物として使っている研究室で、私はこの生物を使って軸索の束縛という観点から神経細胞とグリア細胞の相互作用を研究しています。
本研究室にはマレーシアから3名、バングラデシュから1名、中国から1名の留学生が在籍しています。私はマレーシア生まれの中国人ですが、母国語は中国語で、公用語はマレー語、そして大学教育では主に英語を使ってきました。現在は、マレーシア出身者とはマレー語で、バングラデシュの学生とは英語で、中国の学生とは中国語で、日本出身の学生とは勉強中の日本語でコミュニケーションをとっています。
私の日本語学習は、マレーシアで学部生であった時に第二言語として日本語を選んだ時に始まりました。なぜ日本語だったかというと、日本語は難しくないと聞いたからです。マレーシア生まれの中国人である私は、漢字に慣れ親しんできたので日本語を学ぶ上で有利です。現在も日本語で書かれたものは漢字を頼りにおおよその内容は理解できます。
私の研究室では、教授や助教の先生方との会話はほとんど英語なので、コミュニケーションに困ることは全くありません。日本人学生とは英語でコミュニケーションをとることもありますが、コミュニケーションに問題があるときは日本語を使います。私の日本語能力の限界から、日本語で自分の考えを十分に伝えることが難しいこともあります。
研究室のミーティングや領域が主催するセミナーで使用される言語は、日本語がメインで、私には完全に理解することが難しい場合がままあります。海外の研究者が講師の場合は、使用言語が英語なので、日本語での開催よりも理解ができ、楽しめます。セミナーが英語で提供されれば、もっと理解できると思います。NAISTでは日本語が第一言語なので、日常生活では日本語を使う機会がたくさんあります。
研究室では、別所先生や他の助教の先生方と、上下関係の壁もなく、気軽に話すことができます。そのため、自分の考えやアイデアを自由に共有、表現することができ、お互いに同等のフィードバックを得ることができます。私の研究室の先生方は学生に同僚として平等に接し、学生が意見やアイデアを共有することを常に奨励します。私たちはチームとして協力しています。
学生と教授との間にコミュニケーション上の問題や研究上の意見の対立がある場合、その対立が報告されると、学生の成績や評判に影響が出るのではないかという懸念が常にあります。私の意見では、大学は、学生が何らかを報告する最初の一歩を踏み出したときに、不当な扱いや処罰を受けることがないようなセーフティネットを提供することで、このような事例の報告を奨励すべきだと考えます。また対立があった際、公正な決定のためには、教員のコミュニティによって解決されるだけでなく、そこに学生の参加も不可欠であると考えます。
NAISTには、サンガーシーケンス機器や共焦点顕微鏡など、研究に必要な複数の共通機器があり、研究環境は比較的整っています。このような共同機器のおかげで、効率的に研究を進めることができ、短時間で研究データを得ることができます。NAISTでは、通常マレーシアの大学では許可されていない共焦点顕微鏡を、学生自身が操作することが許されています。また、バイオサイエンス領域の教員やCISSのスタッフは皆、とても親切で礼儀正しいです。何か必要なことがあれば、すぐに教員や教授に連絡を取ることができ、いつでも親身になって相談にのってもらえます。また、NAISTの事務手続きは、面倒な手続きや何段階もの承認を必要とせず、非常に効率的に行うことができます。
NAISTは小さな町にあり、あらゆる場所や宿泊施設にアクセスしやすいとは言えません。最寄りのスーパーマーケットや駅までは徒歩20分から30分かかります。短い距離だとバス代が割高なので、近くの店や駅にはたいてい歩いて行きます。それに、歩くことはいい運動にもなります。夏場は厳しいですが、桜や紅葉の季節はとても気持ちよく、日本の四季を楽しむことができます。
研究の合間を縫って、日本に来てから、北海道、沖縄、京都、宮崎、三重、長野、兵庫、東京など、多くの都道府県を訪れました。週末は研究のことをしばし忘れて友人と大阪にフィギュアスケートに出かけ、平日はジムに通って体を鍛えています。趣味に打ち込むために、フィギュアスケートの靴を自分で買ったほどです。高IQ団体の一員である私にとって、フィギュアスケートは新しい技術を身につけたいという欲求を満たしてくれるし、毎回新しい技術を学ぶのは楽しいです。
この研究室では、性別、民族、国籍による差別や不公平は感じません。一方、マレーシアはマレー系と先住民族70%、中華系20%、インド系10%という国家でありながら、大学進学の際に民族枠※による選抜制度を政策的に採用しており、中華系とインド系のマレーシア人は同じマレーシア人でありながら不公平な扱いを受けていると感じます。
2022年、博士課程の入学式で学長が「共創コミュニティー宣言」を公表したときのことは、今でも鮮明に覚えています。「宣言」は各研究棟のエントランスにも掲げてありますね。学長は、特に、人種、LGBTIQA+コミュニティ、その他のマイノリティの平等の達成を推し進めると宣言しました。私は、NAISTのこの宣言への公約に非常に感銘を受けました。私の国では、このような取り組みがマイノリティを支援するための政策として推進されることは決してないからです。
※国立大学の入学枠をブミプトラに優先的に割り当てる制度。ブミプトラとはマレー語で「土地の子」(マレー系住民、先住民)を意味する。
(令和5年8月)